東京高等裁判所 昭和27年(ネ)1985号・昭28年(ネ)1112号 判決
第一審被告 シー・エム・タタニー
第一審原告 山田保
〔抄 録〕
次に、第一審原告は、奥原淳実に対し第一審被告は代理権を付与した旨表示したと主張するから次に判断する。
(証拠列挙略)によれば、後記のような事実を認めることができる。すなわち、第一審被告は昭和二十六年四月頃その頃取扱つていた右衣類の販売の外交員として奥原淳実を雇入れ、売上金に対する歩合を支給して、東京の店に出入せしめており、同人は「C・M・タダニー商会バイヤースクラブ」なる肩書を付した名刺を用いていたが、同年六月頃古衣類の販売を止めると共に、奥原淳実との雇傭関係を終了したが、同人はその後も第一審被告の東京の店に出入していた。第一審被告の東京の入口ドアーに、向つて右側の扉には「C・Mタダニー商会」、向つて左側の扉には「バイヤースクラブ」とそれぞれ、大書してあり、入口ドアーから入つた内部の模様は、一見外人バイヤーの事務室風に構造せられ、第一審被告自身も時々はそこに来て取引の打合せなどの事務にその階下を使用していた。奥原淳実は上記のように第一審被告との雇傭関係が絶えた後も、第一審被告の右事務所を使用して自己のために取引をなすことについて第一審被告の許諾を得て、従前の通りの名刺を用い、右事務所で、C・M・タダニー商会の代理人のように装つて外部と取引をしており、殊に、自ら注文して作成したC・M・タダニー商会及びその住所と電話番号との記名印を使用していた。しかも、第一審被告も記名印の点はおくとしても、奥原淳実が右のような状態で第三者と取引をしていたことを知りながら、これを禁止するような措置はなんらとることはなく、第一審原告の使用人小林嘉郎は一度ではあるが第一審被告を奥原淳実からマスターとして紹介され、奥原淳実を第一審被告のタダニー商会の使用人であり上記認定の諸取引もタダニー商会となすものであると信じて取引したのである。
第一審被告は右認定のように、奧原淳実が外部からみれば第一審被告の経営するタダー商会の店の代理人のようにみえるような状態におき、又同人がこの状態を利用して第三者と取引をしていることについて阻止するようななんらの処置をとらなかつたのであるから、第一審被告は奧原淳実に対し、第一審被告の営業である食糧品等貿易に関する商品の取引をなすについての代理権を付与したことを一般取引者に告げたものと解するを相当とし、又第一審原告の代理人小林嘉郎が上段認定の罐詰の取引については奥原淳実が第一審被告の代理人であると信ずるについてなんらの過失がなかつたものと認めるを相当とする。しかしながら、金融のための手形を交付して割引させるようなことは貿易業者としての通常の業務の範囲とは認め難いから、上記認定の諸事実からしては、第一審被告が奥原淳実に右の点までの代理権を付与した旨を一般に告知したものとはとうてい認め難く、又仮に小林嘉郎においても、奥原淳実に右の点についての代理権ありと信じたとしても、信ずるについては過失があつたといわなければならない。従つて第一審被告は第一審原告に対し上記認定の罐詰の取引については責任を負うべきだが、手形の金融についてはその責任がないといわなければならない。